平成26年度 第3回市原市議会定例会

【個別質問】 小沢 みか

1. 学校におけるシティズンシップ教育について

・シティズンシップ教育とは

シティズンシップ教育とは、2002年に初めてイギリスで取り入れられた概念あるいはカリキュラムで、日本では「市民性教育」などと訳されています。「市民性」というと、国家権力のもとでその役割を果たすというような概念と誤解されがちですが、ここで言う市民性教育はむしろその逆で、得た知識や情報を自分で取捨選択し個人の権利と義務を行使する力、社会や地域に興味や関心を持ち、民主的・積極的に関与する力を養うものです。
私が今回なぜこの耳慣れないシティズンシップ教育というものに着目したかというと、日頃自分が様々な講演会や学習会に参加する中で、例えば公共資産マネジメント、地域包括ケア、防災、消費者問題、どの分野の講師も共通して必ずと言っていいほど挙げていた概念が「市民性(シティズンシップ)」だったからです。未来の日本社会を担う子どもたちに最も必要な素養はこれだという確信から、今回の質問につながった次第です。
・ シティズンシップ教育が必要とされる背景

シティズンシップ教育先進国のイギリスでは、投票率の低下をはじめとする若者の政治的無関心・ニートなどの社会的無力感、反社会的行動などがその背景にありましたが、日本も悲しいかなこれと同様です。いじめや不登校、危険ドラッグやオレオレ詐欺の横行など、子どもや若者を取り巻く環境は厳しさを増しています。
その一方で、地方分権や公共サービス縮減の流れに伴って、公共の役割を補う市民力や市民自治の重要性も高まっています。市原市でも、改訂市原市総合計画策定にあたり市民会議が設けられ、「官から民へ」という指定管理者制度のもとで公民館は地域の運営委員会が担い、その他市民活動団体への業務委託、各種施策や事業に対するパブリックコメント、審議会、市民アンケートなど様々な市民との協働が図られています。
このように大きく変化する社会情勢にあわせて、子どもたちが身に着けるべき学力観も改めて見直す時期に来ていると感じています。H18年に「シティズンシップ教育と経済社会での人々の活躍について」というシティズンシップ教育宣言とも呼ばれる詳細な研究報告書が経済産業省から出されているという事実も、経済界を含め日本社会が求めるスキルがシティズンシップ教育にあるという事を証明しています。

小沢みか
そこでまず学校におけるシティズンシップ教育の意義について、白鳥教育長のご見解をお聞かせください。

白鳥教育長
シティズンシップ教育は、市民一人一人が社会の一員として、地域や社会での課題を見つけ、自己実現に向けて取り組み、よりよい社会にかかわるために必要な能力を身につけることを目的としております。
教育委員会といたしましては、シティズンシップ教育は、市民としての資質・能力の育成を目指し、社会の中で円滑な人間関係を維持するために、多様な学習活動を行うことであり、子どもたちが「生きる力」を育むための重要なキーワードであるととらえております。
近年、児童生徒の規範意識の低下や人とのつながりの希薄さが問題となっており、その改善のため、自治的な活動による判断力の育成や地域と連携した活動を取り入れることが、重要な課題となってきております。
教育委員会といたしましては、適切な学習機会の提供とシティズンシップ教育について、体験する場を確保し、既存の教科で取り組む中で、シティズンシップ教育の研究をするとともに、児童会や生徒会活動等の自治的な活動や地域におけるボランティア活動などにより、市民の一員として、積極的に貢献する自立した児童生徒の育成を目指してまいります。

シティズンシップ教育の具体例

一口にシティズンシップ教育といっても、その素材は実に様々です。
例えば防災、介護、清掃など、地域社会の向上のために住民と協力して取り組む活動や、環境保護・省エネルギー、貧困撲滅など、社会的課題に取り組む活動。それから経済の分野では、例えば消費者や労働者の権利、食や薬物、悪徳商法対応、CSR(企業の社会的責任)についてなどの、自分の生命や財産を守り、社会に有益な消費行動について。また、政治分野では、選挙への参画や、パブリックコメント・審議会など自分の意見や要望を伝達する手段なども含まれます。
これらの素材が教師から与えられるのではなく、あくまでも子どもたちが主体的に学んでいくというところに、シティズンシップ教育の真髄があります。そのためのスキルとして、自分を客観的に認識する力、他者を理解する力、批判力、情報収集力、プレゼンテーション力、ヒアリング力などがあります。

市原市のシティズンシップ教育の実態

小沢
もちろん市原市の学校現場でも、各々の学校や教員レベルの取り組みの中で、体験型学習などが生活科や総合的な学習の時間などを使って実践されていることと思います。そこで、これらをシティズンシップ教育として改めて捉えなおした場合の取り組み状況についてお聞かせください。

学校教育部
本市の小中学校では、国際理解・環境・福祉・伝統文化・キャリア教育などを、「ふるさと理解学習」として、生活科や総合的な学習の時間の中で、系統的に扱っております。
この学習内容を、シティズンシップ教育として捉えると、地域との関わりの中で、子どもたちの社会参画意識を育てるという点で、共通のものであると考えております。
教育委員会としましては、シティズンシップ教育の理念を踏まえ、学校・家庭・地域が協力し、児童生徒が地域社会の一員として、必要な知識や価値観が身につけられるよう、各学校を支援してまいります。

 学習指導要領の変遷に見るシティズンシップ教育

冒頭、シティズンシップ教育はイギリスから始まったと述べましたが、戦後の日本の学校教育も、社会科の学習指導要領に貫かれている教育目標は「公民的資質の育成」であるし、H元年改定の学習指導要領で、子どもの学力は知識の量ではなく自ら学び自ら考えるものだという「新しい学力観」が初めて提唱されました。そして、H10年の改定で掲げられた「生きる力」とそれを育てるための重要な時間とされましたた「総合的な学習の時間」もまた、シティズンシップの育成にかかわるものです。
ただ、残念なことに、社会科は受験の名のもとに知識の獲得に矮小化されて暗記教科というレッテルが貼られ、「総合的な学習の時間」も現場に一任された結果、目的と実践との乖離や、学校・学年によるばらつきが生まれているケースも多いのではないでしょうか。
そこで、品川区ではH18年度に、あくまでも小中一貫特区としてではありますが、道徳と「総合的な学習の時間」と特別活動(児童会・生徒会、学校行事など)の時間を統合再編した「市民科」を創設しました。また、お茶の水女子大学附属小学校は現行の社会科を暗記型ではない問題解決・提案型のアクティブな社会科に改善し、「市民科」として再構築を図っているし、横浜市も市を挙げてH21年度より導入するなど、まだ実験的ではありますが、独自の取り組みも生まれています

「脱ゆとり」の動きと現場の努力

しかし、「ゆとり教育は学力を下げる」という世論を背景に、H20年の学習指導要領の改定で「脱ゆとり」に舵が切られ、総合的な学習の時間は例えば小学校6年間で430時間から280時間へと150時間も削減された。どの位の時間配分が適切なのかは現場の先生方が一番実感してらっしゃることと思うので、私はこれについての見解は持ち合わせてはいませんが、ただ、H元年の学習指導要領改訂の時に打ち出された「新しい学力観」の理念が薄れつつあるのではないかという懸念は抱いています。
しかし、そんな中でも市内の各学校あるいは教員レベルで、苦労されながら様々な工夫を凝らしてシティズンシップ教育に取り組んでらっしゃる例もたくさんあります。これからの時代に必要な学力とは何か、シティズンシップの意義を教育関係者はもちろん私たち市民も改めて問い直し、支援していかなければならないと思います。
シティズンシップ教育では、教師はティーチャーというよりはコーディネーターあるいはファシリテーターといった新しいスキルが求められます。教育委員会におかれては、市内の全児童生徒が等しく質の高いシティズンシップ教育が受けられるよう、教師への手厚いサポートをはじめ、取り組みが活発に行われるよう今後も多方面からバックアップしていただきたいと思います。

「いちはら子ども議会」について

そこで折しも12月に中学1,2年生による「いちはら子ども議会」が開かれる予定ですが、私はシティズンシップ教育の実践につながる非常に良い機会だと思っています。
選挙のたびに若者の政治離れや低投票率が指摘され、世間ではワイドショー的な政治ばかりが注目を集め、マスコミ次第で右に左に一斉に大きく振れる風潮がありますが、子ども時代から政治を身近に感じる環境になかったことにも一因があると思います。地域の課題について考え提言するという経験が民主主義や市民性の醸成につながることは間違いありません。
そう考えれば「いちはら子ども議会」で注目すべきは議会当日ではなく、その過程にあると思います。議員役の生徒の選出や課題の抽出、どのように合意形成を図り、質問項目を絞り込むのか。そしてそれらに個々の生徒たちがどう主体的に関わるかというところに、教育的意義があるのではないでしょうか。

小沢
そこで改めて、いちはら子ども議会の目的や意義、当日を迎えるまでの手法について、当局のご見解をお聞かせください。

学校教育部
子ども議会の目的は、模擬議会を体験することによって、議会の役割、運営について興味関心を持つとともに、本市の課題に目を向け、質疑を通して、公民としての必要な教養を培うことにあります。
実施にあたっては、各学校において、学級や学年でアンケートを取ったり、話し合い活動を行うことにより、子どもたちの社会参画意識を高めてまいります。
また、子ども議員については、事前学習会や模擬議会の質疑を通して得た成果を、学校に持ち帰り、生徒会など自治活動の運営に生かせるよう、留意してまいります。

お茶の水女子大学付属小学校の提言と若者の政治参画について

お茶の水女子大学付属小学校の児童教育研究会の資料によると、「青少年は、政治に対する批判力はありますが、自分の考えを発表・提案して行動する段階になると、黙ってしまい行動しなくなる。自分が納得できないような事柄に対しても『反対だが黙っている』や『誰かが抗議すれば同調する』のように周囲の状況を見ていることが多い。多様な価値と様々な選択肢に対して、批判するだけではなく自ら考え、提案し、行動する民主主義社会の主権者が必要である」とあります。
思わずこちらの襟の方を正さなければならないと思うような内容ですが、それはともかく、H21年から裁判員制度が実施運用され、死刑を含む重い刑事罰の審理に国民も参加することとなりました。また、今年6月にはH19年成立の「憲法改正国民投票法」が改正され、4年後には投票年齢が18歳に引き下げられることとなり、選挙権年齢の見直しも議論されている。社会や政治参画に関するシティズンシップ教育がますます求められることから、いちはら子ども議会も今年に限らずぜひ継続して取り組んでいただくよう要望します。

2.日本語を母語としない児童生徒への支援について

市内小中学校の帰国・外国人児童生徒の実態

市原市内の小中学校に在籍する外国人児童生徒は275名(H24年5月1日時点)。これは、全児童生徒の約1.3%にあたります。同様の文部科学省の調査では、日本全体で外国人児童生徒の割合は約0.6%であることから、市原市は外国人児童生徒の割合が非常に高い自治体であることがいえます。
経済や社会のグローバル化に加え、政府は新成長戦略として外国人労働者の受け入れ拡大の方針を打ち出しており、今後外国人の子どもは増加することが予想されます。加えて、帰国子女なども合わせれば、学校で何らかの日本語指導や支援が必要な子供(JSL(Japanese as a second language)児童生徒)の割合は今後増えていくことが予想されます。
日本では、外国人の子どもに就学義務は課せられていませんが、国際人権規約を踏まえ、保護者が希望する場合は無償で受入れ、日本語指導や適応指導などの必要な配慮を行うなどの外国人の子どもの教育を受ける権利を保障しています。
JSL児童生徒への支援は、彼らが日本で幸福な生活を実現するために不可欠であるということはもちろん、将来の犯罪やトラブルの防止など、日本社会の安定や発展にとっても有意義です。また、同じ学校で学ぶ日本人の子ども達にとっても、プラスになるに違いありません。
そこで市原市のJSL児童生徒に対する支援体制についてお聞かせください。

日本語指導が必要な子どもの把握について

市原市では、日本語指導が必要とされている児童生徒の定義としては、目安として来日3年未満で、あいさつなど日常会話もほとんど通じない子どもがそれに該当すると伺っています。しかし、一見ほぼ不自由なく会話ができても、いわゆる学習言語となると話は別で、学校の授業や宿題・テストなどでつまずき、結果的に学力に大きな影響を与えていることが非常に多い。指導する担当教諭はじめ学校の負担も相当大きいものと思われます。
因みに、今年5月1日時点で日本語指導が必要とされた子供の数は、小学校107名・中学校14名(全外国人253名)であった。しかし、実際に支援を必要としている子供の数は、この数字では到底納まらないことは容易に想像できます。

小沢
従って、滞在日数にかかわらず、子ども一人一人の日本語習得レベルを学習言語レベルまで丁寧に判断し、しっかり把握したうえで適切に支援の対象に乗せていく必要があると思いますが、当局のご見解をお聞かせください。

学校教育部
日本語を母語としない児童生徒たちは、来日当初、日常会話等に不安を感じている場面が数多くありますが、日本語の習得は比較的早く、個人差はあるものの、次第に他の子どもたちと同じように学校生活が送れるようになっております。
学習言語レベルに至るまでの指導については、きめ細かな指導が行き届いていない面もありますが、教科学習をとおして他の児童生徒と一緒に学び合うことで、学習理解が深まっているという事例もございます。
このことから、個々の日本語習得状況を十分把握した上で、適切に支援していくことはたいへん重要であると考えており、在日年数にかかわらず学級担任や教科担任等が必要に応じて、習熟度に合わせた学習支援を行ってまいります。

日本語指導や支援の現状

実際にどのような支援体制が取られているかと言うと、6名の日本語指導協力者が時給の臨時職として配置されており、計27校に在籍する当該児童生徒に対し、1時間単位で年間21回と限られた時間枠の取り出し授業で日本語を教えている。しかし、この時間では到底足りるはずもありません。
さらに、支援が必要なのは言語だけではなく、転入時や三者面談などの際に保護者と担任の間に立って通訳したり、日本の学校の決まりや母国との違いを説明したり、連絡事項や行事の連絡やプリントの翻訳など、多岐に亘ります。さらに文部科学省は、帰国・外国人児童生徒の対応について特段の配慮が必要として、今年4月より学校教育法施行規則を改正し、個別の指導計画の作成を求めることとなった。今後現場の負担もさらに増えると思われます。

小沢
現在の日本語指導協力者の体制は、これらのニーズに対して十分その役務が果たせているといえるのか。ご答弁いただきたいと思います。

学校教育部
日本語指導の協力者の支援体制につきましては、正規の教員枠に加えて、国からの「日本語指導対応教員」を小学校に5名、中学校に1名配置しております。
さらに、本市では「帰国・外国人児童生徒等指導協力者」6名を拠点校に配置し、要請に応じて各小・中学校に派遣しており、子どもたちのニーズに応じた言語支援や通訳などの取り組みを行っております。
しかしながら、現実的には保護者への対応も求められていることから、今後は更に国際交流協会と連携、協力を図っていきたいと考えております。

支援体制の強化についての提言

日本語指導協力者の在り方として、決められた時間枠での支援というやり方では限界があるのではないでしょうか。事実、国際交流協会による放課後の日本語指導教室やサマースクールなど、子どもたちへの支援の多くをボランティアで補っているのが現状です。また、保護者の通訳やプリントの翻訳など、そのたびごとに日本語指導協力者が無償で、あるいはボランティアの人々の協力で補われています。しかもその派遣は確かなルートがあるわけではなく、極端に言えば個人のつてでお願いしているという非常に心もとない状況下にあります。
そこでJSL児童生徒への支援体制の強化について、2つの方策を要望します。

小沢
1点目は、日本語指導協力者の体制の強化です。具体的には、現在のような限られた時間の契約ではなく、例えば嘱託の身分とし、現在ボランティアで担っている支援内容も含めて業務として保証し、その能力を最大限活用できるようにすること。
2点目は、ボランティアの組織化です。千葉市では、昨年「千葉市JSL児童生徒支援の会」という組織が立ち上がり、支援会員がリストアップされています。学校現場から要請を受けた教育委員会が当会につなぎ、コーディネーターと支援員が学校に派遣され、児童生徒への支援が開始されるという仕組みになっています。
このように、個人間のつてに頼るのではなく、国際交流協会とも連携を図りながら、安定的にボランティアが派遣されるような仕組みを、市原市にも整備していただきたい。
以上2点について、当局のご見解をお聞かせください。

学校教育部
日本語指導の協力者の体制については、日本語を母語としない子どもたちへの迅速で効果的な対応を図るために大変重要であり、今後、他市の状況等を踏まえ、組織のあり方について研究をしていきたいと考えております。
ボランティアの組織化については、国際交流協会の持つ豊富なネットワークを活用し、人材確保に努め、更なる体制の充実を図ってまいりたいと考えております。

中学生のメンタルサポートについて

特に中学生の場合、学業面だけでなく、母国との文化や習慣の違いや将来への不安、また意にそぐわない来日などで精神的に不安定になるリスクは低年齢の子供に比べて高く、メンタル面の手厚いサポートも必要です。そのほか、千葉県の外国人特別入学者選抜制度などの特殊な受験制度の情報はじめ、進学・就職のためのフォローがどの生徒も十分に受けられるよう、配慮していただきたい。
支援を必要としているJSL児童生徒誰もが、必要な支援を適切に受けられるよう、体制整備をお願いします。

3. 地域子ども・子育て支援事業について

(1)学童保育の運営団体の選定と待機児童対策について

・ H26年度学童保育事業運営委託者の選定経過について
市原市では、H17年度から学童保育を市の委託事業とし、H20年度から企画提案方式で運営団体の選定を行っている。昨年度も選定が行われ、H26年度の委託先が決定されました。その際、複数の団体から応募のあった2か所について、いずれもこれまで実績のあった団体ではなく、選定直前に設立された団体(11月、1月。決定は1月29日)が選ばれた。その余波は決して小さくはなく、決定後に開かれた3月議会でも取り上げられたところです。
私は新規団体の参入を図ることで学童保育事業の質の向上を図るという当局の理由は理解しないでもありませんが、それにしてもこれほど極端に設立間もない団体が2か所とも選ばれたことに対しては、昨日も及川議員からご質問もありましたが、一般的に違和感を覚える方も多いのではないかと感じています。
私は審査に係る採点表を前回の選定時のものと比較してみましたが、前回あった「児童福祉に関する運営実績があるか」という審査項目だけが、今回の選定ではすっぽり抜け落ちていました。
どういう意図が働いたのかここで追及する気はありません。3月議会の佐藤部長のご答弁では、「審査過程で、評価方法や点数について特に支障が生じたことはない」とのことでしたが、審査に支障がなくても、利用者に支障るようでは問題です。新規参入が可能な環境を担保したいという方針はわかりますが、逆に言えば事業の安定性や継続性は担保されないという事です。
そこで私はこの学童保育事業運営団体の選定に関し、二つの観点から伺いたいと思います。

利用者への配慮について

一つめは、利用者への配慮についてである。企画提案方式を選択する際に、児童や保護者に対する影響を十分想定していたのでしょうか。
児童にとって、これまで相談したり他愛ないことを話したりする相手、また保護者にとっては信頼し安心して託してきた相手である指導員が仮に一人代わっても、不安を覚えるものです。ましてや運営団体が変われば、指導員が総入れ替えとなる可能性もあるわけで、その動揺のほどは容易に想像できます。

小沢
運営団体が変わることによる利用者の不安や不利益に対するフォローについて、当局ではどのような方針を立てられていたのか。また、昨年度行われた選定時に実際に市自らが行った対策についてお聞かせください。

子育て支援部
選定にあたりましては、国、県のガイドライン及び市の仕様書に基づき、これらの水準以上に保育が可能かどうか、という視点で審査いたしましたので、基準評価点以上の団体いずれでありましても、適切な運営が可能であると考えております。
従いまして、基本的には団体が替わることがあっても、保護者の皆様へは大きな影響がないものと考えておりました。
もちろん、運営団体が変更となれば、事務引継ぎや保護者への対応が必要となりますので、これらについては円滑に対応できるよう考えていたところでござます。
次に、市が行った対策についてでございますが、運営団体に変更があった「ちはら台地区」及び「南部地区」の保護者の皆さまから、選定経過等を説明して欲しいとのご要望がございました。
そこで、市としては、両地区の保護者を対象とした説明会を別々に開催し、選定の経過や、今後も仕様書などに沿った運営に変わりはないこと等を説明したところであり、概ねご理解はいただけたものと考えております。

一口に委託先の選定と言っても、扱う事業の対象は物ではなく、生身の子ども・児童福祉事業です。
現に、運営団体が変わることを知らされた利用保護者から、メールを含めた手紙が18件、電話が10件寄せられたと伺っています。これは決して見過ごせない数字です。
これが学校なら、校長・教頭以下先生が総入れ替えとなることは教育環境上ありえない訳で、それがまさか保育環境では通用するのだと考えているのだとしたら、とんでもない事です。

小沢
運営団体を変更する可能性があるのであれば、アフターフォローはもちろんですが、保護者との利用契約時にその点についてのインフォームドコンセントをしっかり行うとか、定期的に利用者の声をモニタリングするなどの十分な対策をとることは、制度選択を託されている立場である行政に課せられた最低限の責務だと私は思うのですが、ご見解をお聞かせください。

子育て支援部
学童保育につきましては、市が責任をもって、保護者からの申込みを受け、放課後等において、児童に安全な生活の場を提供し、その健全な育成を図るものでございます。
そして、運営業務につきましては、効率的な対応が可能な民間の活用を図っているところであり、地域活動団体又は意欲のある一般団体に委託しております。
その選定にあたりましては、業務内容が「児童の保育」という特徴を勘案し、価格競争ではなく、企画提案方式を採用してまいりました。
先程もご答弁したしましたが、基本的には、企画提案方式により一定の水準以上の団体を選定しているところであり、学童保育の業務に支障は生じないものと考えております。
なお、現在、議員ご提言の契約時の利用者の同意や定期的な利用者の声を聞くなどは仕組みとしてはありませんが、利用者などから苦情やご意見をいただいた時は、適切な対応に努めているところでございます。
さらに、昨日の本会議において可決いただきました「市原市放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準を定める条例」におきまして、事業者の責務として、運営に関して評価を行い、結果を公表するとともに、保育内容等について、利用者の理解・協力を得るよう努めるとされました。
市としましては、学童保育実施事業者として、これらの対応を図る仕組みをつくるとともに、より良い学童保育とするため、様々な取り組みを行ってまいりたいと考えております。

事業者あるいは職員への配慮

もう1点気になるのは、事業者あるいは職員への配慮という観点です。
保育サービスを提供する指導員の労働環境は大変厳しいものとなっています。厚生労働省の資料によると、53%・約半数の指導員は年収150万円未満で73%の職員が非正規。1年契約が多いため、勤続年数が増えても賃金はあがらない53%、退職金がない71%、社会保険がない38%、一時金がない58.0%、 時間外手当がない35%。これでは官製ワーキングプアと言われても仕方がありません。さらに、運営団体の選定は実質3年間ごとと短く、しかも積極的に新規参入を図るとなれば、モチベーションも維持できず経営や雇用環境の不安定化につながって、かえって質の低下を招くことにはならないでしょうか。

小沢
実質契約期間を延ばすことについては、昨年9月の本会議でも取り上げられ、検討する旨のご答弁でしたが、現時点でのお考えをお聞かせください。また、審査の際に、児童と指導員との繋がりを重視するという意味でも、団体のこれまでの実績をもう少し考慮するよう検討していただきたいのですが、如何でしょうか。

子育て支援部
契約期間についてでございますが、一般論としまして、長期にわたる期間を設定した場合、継続的に安定的な運営ができる一方、弊害を伴う場合もあります。
このため、運営団体の選定につきましては、これまで、公募として経過年数が浅く、比較的、早い周期での評価、点検等を行うため、3年毎を基本としてまいりました。
現在、来年度以降の運営団体の選定に向け、子ども・子育て支援新制度を踏まえて、ある程度、長期的な視点も必要ではないかということから、期間を延長する方向で関係部署と協議を行っております。
次に、団体の実績を考慮する必要があるのでないかということについてでございますが、昨年度実施しました選定では、事業計画の妥当性、子育て支援に対する理解度、指導員の確保と質の向上などの運営体制などを選定基準とし、事業実績については、問わないことといたしました。
これは、実際選定された場合、どのように運営していくのかを主眼としたものでございます。
また、学童保育のさらなる質の向上を図るためには、より多くの団体から優れた企画提案をいただく必要があると考えたことによるものでございます。

新制度への移行に伴い、また続けて今年も選定を行う予定ですが、これら課題については十分検討し、児童や保護者が安心して質の高い保育を受けることができるような仕組みをぜひ構築していただきたい。

学童保育の待機児童対策について

小沢
学童保育についてもう1点、待機児童対策について伺います。現在、学童保育の対象学年は特別支援学級在籍児童を除き1年生から3年生までで、入所児童が定員に達していない場合のみ、4年生以上を受け入れています。今年の利用不承認いわゆる待機児童は、4年~6年生の計134人。高学年のニーズが意外に多いことがわかります。
市内のある小学校のPTAによる独自のアンケート結果では、52%の保護者が6年生まで学童保育が必要と回答しており、その理由として、見知らぬ訪問者、災害、不審者や誘拐などが挙げられていました。市内では、全国区のニュースになった6月の東国吉の事件はじめ、強盗事件や変質者の出没など事件が多発しており、保護者の不安は想像以上に大きいと言えます。私も実際に、来年度から高学年になるお子さんを持つ保護者の方から、学童保育に預けられなければ安心して仕事ができないとの声を伺っています。
折しも、来年度からの新制度施行に伴い、学童保育の対象児童が6年生にまで広がり、量の拡充への期待が保護者から寄せられています。そして先日開かれたいちはらっこの子育ち支援会議では、ニーズ量の推計を基に、H31年度までにあと15か所整備が必要であるとの結果が示されました。
ここで伺います。現在すでに134人もの待機児童がいる状況を具体的にどう解消していくのか。そして新制度施行初年度である来年度はどうなるのか。対応策をお示しください。

子育て支援部
現在、「子ども・子育て支援事業計画」の策定作業の中で、ニーズ量等を踏まえ、量の確保策について検討しているところでございます。
確保策の基本的な方向としては、これまでと同様、学校敷地内で、早急な対応が可能な余裕教室の活用が最適と考えており、現在、教育委員会と協議を進めております。

放課後子ども総合プラン

小沢
学校の余裕教室が確保できるかは未だ不透明で、保育ニーズの高い学校ほど余裕教室の確保が難しいというジレンマがあるということは伺っています。
折しも、厚生労働省と文部科学省が先月発出したばかりの「放課後子ども総合プラン」では、学童保育と放課後子ども教室の一体的または連携による実施にあたり、空き教室ではない教室や体育館などの放課後一時利用も視野に入れた学校施設の徹底的な活用を掲げています。
先のPTAアンケートには、仕事を持つ・持たないにかかわらず放課後安心して子どもが過ごせる場があれば、という声も寄せられています。市原市はこれまで学童保育の整備を優先させてきましたが、特に高学年の放課後の在り方を考慮した場合、残り15か所すべての学童保育化にこだわるのか、それとも放課後子ども教室も選択肢に入ってくるのか、子育て支援部・教育委員会双方十分に協議・連携して、鋭意検討してください。

(2)ファミリー・サポート・センター事業の積極的な活用について

事業の状況

小沢
ファミリー・サポート・センター事業は、子供の習い事などの援助や保育施設までの送迎、預かりなど、市社会福祉協議会への委託でH18年度から取り組まれています。会員数はH25年度で利用会員295名、協力会員78名、両方会員20名と昨年度とほぼ同数であるが、事業開始より少しずつ増加はしています。
ところが、利用状況はというと、H22年度の2136件をピークに減少しはじめ、H25年度は837件と前年の59%にまで落ち込んでいます。年々減少している原因はどこにあるのか、またどのような対策をお考えか、ご答弁ください。

子育て支援部
事業の利用件数でございますが、議員ご指摘のとおり、平成22年度をピークに減少しております。
特に平成22年度から23年度にかけては、利用頻度の高かった4名の利用会員が、「子どもが一人で習い事に行けるようになった」などの理由により利用を中止したこともあり、前年度に比較して710件の大幅な減少となっております。
また、平成22年度以降の特徴といたしましては、それまで増加傾向にありました、実際にサービスを利用した利用会員が、月18名程度とほぼ横ばいの状況で、利用者が固定されていると思われます。
減少の要因について特定することは難しいと思われますが、保育所の増設や学童保育の拡充などの保育環境の改善や、個々の利用者の状況の変化などによるものではないかと考えております。
今後の対応につきましては、改めて事業の周知を図るとともに、協力会員を増やすことにより、多様なニーズに応えられる体制を整えるため、いちはら市民大学の子育て支援コース修了者に、協力会員登録時の研修を免除することとしたところでございます。

核家族化や女性の社会進出など、子育てを取り巻く環境が変化し、本来ならば親類縁者やご近所のつながりの中で解決できたことが今はできにくくなっています。9月13日に公表されたばかりの内閣府の世論調査でも、近所同士助け合いながら子育てしているとする割合は41.8%。実に6割の子育て世帯が孤立しているという状況が浮き彫りになりました。
気兼ねなく頼めてきめ細かなニーズに対応してくれるファミリー・サポート・センターの潜在的な需要は、増えこそすれ減ることはないと思います。今の利用状況からすると決して有効に活用されているとはいえません。もう一歩踏み込んだ方策が必要ではないでしょうか。

実施主体を地区社協へ

小沢
そこで一つの案ですが、ファミリー・サポート・センターの実施主体が地区社協であれば、地域の住民がコーディネートし、地域の住民がサポートしあうという顔の見える範囲での助け合いが可能となり、さらに事業が活発化するのではないでしょうか。
各地区社協の状況に温度差はあるかもしれませんが、すでに辰巳台の「辰巳猫の手」のように助け合いの有償サービスのスキルがあるところもあるので、手を挙げた団体がモデル的に始められるような仕掛け、あるいは補助の仕組みなど、検討してもいいのではと思いますが、ご見解をお聞かせください。

子育て支援部
現在、ファミリー・サポート・センター事業につきましては、市内で1箇所のみの設置という国の要綱に基づき、実施主体を市とし、事業を市原市社会福祉協議会に委託しております。
この委託業務体制につきましては、社会福祉協議会に業務の広報、啓発、職員の総括管理の事務を行うアドバイザーを配置しております。
また、一定の地区を単位とする会員グループを設け、取りまとめ役としてサブリーダーを選任し、グループ内の調整を行うことも可能となっております。
現在、3地区、五井、市原・辰巳台及びちはら台にサブリーダーを配置しており、一定の範囲内ではありますが、地域の実情に対応した活動が出来ているのではないかと考えております。
もちろん本事業につきましては、会員相互の信頼関係が重要でありますので、ご提案のありました地区社協において、身近な方々同士の顔の見える助け合いにすることなどにより、保護者も安心してサービスを利用することが期待でき、利用促進にもつながるのではないかと思われます。
しかしながら、現状におきましては、各地域間において会員数に大きな格差があり、特に協力会員の人数に限りがある中で、広域的に行われていた調整対応により実現していたサービスへの影響も懸念されるところでございます。
また、議員ご提言の既存の団体への助成の仕組み作りになどについてでございますが、本事業につきましては、子ども・子育て支援新制度におきましては、子育て援助活動支援事業として、新たに改正児童福祉法に規定され、国、都道府県以外の者が実施主体となれることになります。
したがいまして、既存、あるいは新規の団体が取り組むことも可能となります。
これに関しての実施細目が、まだ国から示されておりませんが、子ども・子育て支援事業計画での量の見込み及びその確保策を踏まえ、対応してまいりたいと考えております。

学童保育の待機児童への活用

小沢
先ほどの学童保育の待機児童問題も、児童福祉法改正で6年生までが対象となったわけですから、市が責任を持って、待機児童の人数が少なすぎて設置の目途が立たない学校とか、あるいは新たに設置するまでの繋ぎとして、利用者負担に配慮したうえでファミリー・サポート・センターを活用するという選択肢も考えられます。
また別の視点から言えば、こういったソフト事業を充実させることで、今後保育の必要量のピークが過ぎた後の過剰な施設整備のリスクを少しでも回避する事にも繋がると思います。ぜひ積極的な活用に向け工夫して頂きたい。

(3)事業のあり方について

13事業の重要性、ニーズ調査の分析と計画への反映は

子ども子育て支援新制度における地域子ども・子育て支援事業では、計13事業が示されています。新制度では、どちらかと言えば認定こども園や保育所・幼稚園など、子ども子育て支援給付にかかる施設整備の方が注目されがちですが、私はこちらの13事業の在り方が子育て支援充実のカギを握っていると思っています。
13事業は、先ほど取り上げた学童保育やファミリー・サポート・センター事業の他に、保育コーディネーター、一時預かり事業、延長保育事業、病児・病後保育など、子育てのきめ細かなニーズに対応するものです。また、交付金はこれら13事業へ包括的に降ろされるため、どの事業にどう配分するか市の裁量に大きく左右される分野でもあります。

緊急保育や休日保育など、制度がうまくかみ合わない例

子育てに関する個人的な悩みから待機児童などの課題まで、保護者によくよく話を聞けば、地域子ども・子育て支援事業をうまく回して積極的に活用することで解消される場合も意外に多いようです。その意味では、8月に設置されたばかりの保育コーディネーターに大いに期待するところですが、それ以前に、各事業それぞれをどの機関がどう担うのが最も効果的か、各々の役割分担や連携が適切に行われているかどうか、子ども・子育て支援事業計画の策定にあたって改めて精査する必要があると感じます。
何が問題で、どの機関がどの役割を担えば解決するのかなど、事業横断的に検討する必要があるのではないでしょうか。

協議会設置の提案

小沢
新制度は官民様々な関係団体が関わり、これまで以上に子どもを取り巻く環境が複雑になります。特に地域子ども子育て支援事業には、特定教育・保育施設はもちろん、小規模保育施設や家庭的保育施設、保育コーディネーター、保健師、民生児童委員、子育て支援員など、数多くの主体が関わっています。
そこで、事業の円滑で効果的な運用のために、これら子育てに携わる関係者が情報を共有し、課題解決に取り組める協議会のような場が必要ではないかと考えますが、ご見解をお聞かせください。

子育て支援部
地域子ども・子育て支援事業につきましては、特に、人と人とのつながり、地域のコミュニティなどのネットワークが非常に重要であります。
また、そのあたりを踏まえた中での組織的な対応も必要であると考えております。
しかし、幅広い分野の事業がございますので、関係団体をどのように組み合わせたらよいかという事も含め、先ずは検討してまいりたいと考えております。