令和3年市原市議会定例会2020年度決算 総括質疑・意見陳述

総括質疑

まず初めに、「魅力ある都市像に向けた戦略の検証と今後の取組について」質疑を行います。

1.魅力ある都市像に向けた戦略の検証と今後の取組について
 年度当初、市長は「いちはらイノベーション宣言」に基づき、新たなまちづくりを全国に先駆けて戦略的に展開することを目的に、都市戦略部を創設されました。
さらに、大胆な発想によるダイナミックなまちづくりを強力なマネジメントのもとで展開するため、総務省から東副市長を招聘されました。
二人体制、しかも特命での副市長人事はこれまでになかったことから、市長の並々ならぬ変革への決意の象徴と捉えています。
そこで、改めて東副市長に伺います
 着任以来、市長の命を受け采配を振るわれた中で見えてきた本市の強みや手ごたえ、また逆に本市のウィークポイントや課題、そして展望についてお聞かせください。

(東副市長)

 本市総合計画に掲げる目標人口27万の維持に向け重要なことは、市内の住民・企業の皆様に市原に住み、立地し続けて頂くこと、市外の皆様に訪れて頂くと同時に、市外からの資本・ノウハウの移転を図ること、そして市外の住民・企業の皆様に移住・移転して頂くことであり、またそうしたいと思って頂くことであると考えております。
 その実現に向け踏まえるべき市の強みとして、まず「まち・ひと・しごと」のうち「まち」・「しごと」の面では、都心と羽田・成田の両空港のいずれからも1時間という好アクセス、日本一の数を誇るゴルフ場、現代アートに関する様々な蓄積、国際的評価が非常に高いスポレクパーク、さらにぞうの国、チバニアン、里山など、首都圏住民に訴求力のある豊富なコンテンツが挙げられます。また、市域が広域である中での沿岸部から内陸部まで走る公共交通の存在、石油化学企業を中心とした比較的安定的な雇用環境も大きな特色です。
 さらに「まち・ひと・しごと」のうち「ひと」に関して、北部では臨海部企業就職時の単身若年層の転入超過、南部では、地域おこし協力隊の活躍もあり、里山の環境を求める転入者の増加がみられる一方、単身女性や、子育て世代の結婚・マイホーム購入等のタイミングでの市外流出、さらに南部では自然減と北部への転居による人口減少といった特徴も見られます。
 こうした特徴や、コロナ禍に伴う地方回帰の潮流なども踏まえ、北部ではいわば「人口のダム」として子育て世代に住み続けていただけるまちづくり、南部ではその強みを活かした移住・企業移転の推進を取組の方向性として整理し、昨年度は「拠点まちづくりビジョン」の策定、「いちはらライフ&ワークコミッション」の設立、また市の強みであるゴルフと現代アートを交流・関係・定住人口の増加に繋げていくための部局横断的なプロジェクトチームの立ち上げなどに、関係各部局の皆様と取り組んで参りました。
 また、コロナ禍という前例の無い時代にあって民間の持つ様々なノウハウを地域課題の解決につなげるべく、市長のイノベーション宣言の下、首都圏からの好アクセスを活かし、オープンイノベーションや公民連携の事例づくりに取り組んで参りました。例えば高滝湖周辺では、地域企業と移転企業のビジネスコミュニティが生まれ、様々なチャレンジが始まっています。
 さらに、市域が広域である本市において、「住み続けたいまちづくり」に向け、公共施設の質と量の最適化や交通、特に交通空白地域への対応は避けて通れません。
 公共施設のハードの議論には中身、ソフトの議論が不可欠であります。これはすなわち行財政改革であることから、関係部局と連携しながら、論点を整理し、検討体制を整えたところです。今後、関係部局間での膝をつきあわせての議論・調整にしっかり汗をかいて参ります。
 また、交通の課題についても論点整理をさせて頂いたところであり、ステイクホルダーも多いことから、丁寧な議論を心掛けて参ります。
 いずれにいたしましても、今後も、各部局が同じ方向を向いて取り組んでいけるよう部局間の横串を刺し、人口27万人の維持に向け、より効果的な施策展開・情報発信に取り組んで参ります。

 コロナ禍にあって現場と直接触れ合う機会も十分に持てず、もどかしい想いをされたこともあったのではないかと推察いたします。
それでなくとも非常に難しいミッションですが、交通政策・資産活用・拠点形成の3つの施策が融合した確かな戦略によって、市民生活の向上が実感できるようなエリアが一つ二つと誕生することを期待しています。

あと一問。

 都市創生戦略のうちの公共施設の活用、特に広域対象施設の再配置について伺います。
 例えば庁舎、市民会館、教育センター、青少年指導センター、サンプラザ市原、五井会館、勤労会館など。
 R2年度のコロナ禍による社会変革に対応するべく、改めてこれらを俯瞰し、全庁的に再検討されたことはあったのでしょうか。またこのことについて、今後の予定があればお聞かせ願います。

(都市戦略部長)

 市では、公共施設を取り巻く課題に対して、中長期的かつ全庁横断的な視点で、公共資産の質と量、コストの最適化に取り組む「公共資産マネジメント」を構築するために、平成28年3月に「市原市公共資産マネジメント推進計画」を策定し、持続可能な行財政経営の確立に向けた取り組みを推進してきました。
 また、同計画の4つの視点のうち、「施設の質と量の最適化」に基づき、長期的な見通しを踏まえた公共施設の配置、規模、機能などの最適化に取り組む方向性を示すため、「市原市公共施設再配置基本方針」を策定し、総合計画で目指す都市像の実現に向け、過去の常識にとらわれない新たな発想で、公共施設を見直し、市民ニーズの変化に対応することを目指してきたところでございます。
 現在、庁舎をはじめ、五井会館、勤労会館、サンプラザ市原などの広域対象施設については、再配置基本方針における5つの視点と、拠点形成構想や立地適正化計画等で目指す都市機能の誘導を見据え、施設所管部門を中心に、公共資産マネジメント推進会議等を活用し、全庁横断的な議論を始めたところでございます。
 今後は、人口減少や若者・女性の流出、社会経済情勢の変化等による厳しい財政状況や、自然災害・新型コロナウィルス感染症の蔓延により、公共施設による行政サービス提供にも大きな影響を及ぼすことが想定される一方、ICTやDX、SDGsの考え方、新しい生活様式の導入による変化をチャンスと捉え、より柔軟で効率的な行政サービスの提供方法という観点から、全庁横断的かつ一丸となり、俯瞰的な視点をもって、市原市公共資産マネジメント推進計画の中間見直しに取組むことで、広域対象施設における再配置の方向性を示してまいります。

 先般、庁舎等整備基本計画の策定に向けた取り組みについて報告があったが、残念ながらコロナ禍前の行政の価値観からの転換点を見出すことはできませんでした。
八幡宿駅西口複合施設に関しても、前年度の自然災害やコロナ禍を経てもなお、既定路線通りに淡々と進められておりますし、その他の施設についても個々別々に活用策が検討されています。
これらの動きは、旧態依然とした行政手法そのものとしか映りません。
公共資産は市民の財産です。
広域対象施設の再配置については、手戻りもいとわない覚悟で、あくまでも市民にとっての最適化を追求されるよう要望します。

意見の陳述

それでは、このほか特に気になった点に絞って意見陳述を行います。
市長並びに執行部におかれては、分科会で申し上げた事項と合わせてご勘案頂くよう予め要望いたします。

※対話と連携について

R2年度で特筆すべき取り組みは、オープンイノベーションです。
コロナ禍にもかかわらず、公民連携事業を次々と具現化されたその熱意と方向性については、十分理解し評価しております。
ただ決算審査では、採択された提案や事業の、目的やスキームが明確にならなかった事例が散見されました。
このまま相手のペースに飲まれたり相手に配慮しすぎたりして目指す姿がぼやけ、検証がおろそかになるのではと考えるのは杞憂でしょうか。
「オープンイノベーションに取り組んでいる」こと自体が目的になっては本末転倒です。
プレーヤーの中で、市民が今何を求めているのかを一番よく知っているのは、やはり職員だと思います。まず行政側がそのことをしっかり自覚したうえで、民間提案から出発するのではなく、市民ニーズから出発した事業設計に努めるよう要望します。
今後は、モニタリングや成果検証の仕組みを体系的に整備し、取り組みを見える化することも必要です。
各プロジェクトが確かな目的を持って総合計画に位置付けられ、着実に市民の生活実感として成果が上がることを期待しています。
なお、これまで熱心に奉仕してこられた市民や地域団体等の公益活動への意欲を削がないよう、オープンイノベーションの取り組みとの公平性には十分配慮し、双方をコラボさせるなど、その支援のあり方にも工夫を凝らすよう付け加えさせていただきます。

※「SDGsのシンボルとなるまち」の実現について

R3年5月に、千葉県内の自治体として初めてSDGs未来都市及び自治体SDGsモデル事業に選定されたことは、R2年度の地道な働きかけや取り組みが実を結んだものと評価しています。
しかし、持続可能性の要となる環境施策について、積極的に講ずる意志や動きがほとんど認められなかったのは非常に残念です。
これでは市民や事業者に対して何のメッセージも響きません。
私たちが目指すSDGsの未来都市像は、モデル事業を展開することだけではないはずです。
市の貴重な財産である自然環境を守り抜くこと、食品ロス・廃棄削減の取り組みを進めることなど、今ある事業を深化させれば実現できることはまだたくさんあります。
R2年度は、多くの企業でSDGsをビジネスに反映させる取り組みが加速化し、一般の人々の意識も急激に高まりました。
執行部におかれても、こうした社会の趨勢に後れを取らぬよう、今一度襟を正して取り組んで下さい。

※新型コロナウィルス感染症対策に係る予算の執行について

R2年度は9回の補正予算を組み、市民や事業者の救済や感染予防などに取り組まれました。
特に、特別定額給付金の給付が迅速に進められたことは評価に値します。
ワクチン接種や予約に際しての混乱なども、大災害レベルの疫病という、これまで全く経験値のない事態だったことを鑑みれば、ある程度許容できるものと考えます。
しかしながら、関連予算のうち特にウィズコロナ・アフターコロナへの対応に係る事業は、総じて市民の苦難に寄り添っているとはとても思えるものではありませんでした。
市内で必死に踏ん張るエッセンシャルワーカー、困窮する市民や事業者のダメージを食い止めるための有効な使い道が、他にもっとあったのではないか。
国が・県が・近隣自治体が・・・ではなく、こういう時こそ地方自治のスピリットを発揮してほしいのです。
今現在は感染者数も落ち着いていますが、海外の感染動向から第6波も避けられないとの見方が濃厚です。次の波に備え、これまでの経験を活かして、機動的かつ冷静に施策展開できるよう体制を整えて下さい。

 ※内部統制について

R2年度は、ちはら台の乳児衰弱死事件が明るみとなり、生活保護制度の運用について会計検査院から指摘を受けるなど、職員の不祥事や組織体制の脆弱さが特に目立ちました。
この事実は、私たち市民にとって全く受け入れがたいものです。
年度当初に市長が述べられたように、それぞれの事務事業は『何のためにするのか』『誰のためにあるのか』を職員一人一人が再度肝に銘じ、その後策定された組織ビジョン・経営理念が決して絵に描いた餅ではないという事を、確実に私たちに示していただきたいと思います。

※財政

R2年度決算は、財産収入の落ち込みと維持補修費の増加が目立ったものの、歳入の根幹をなす市税は最小限の減少に抑えられ、財政指標も概ね良好に推移していると判断しました。
しかしコロナ禍による社会経済情勢はなお不透明。加えて本市の長期財政収支見通しは今後10年間で単年度平均約53億の収支不足が見込まれ、さらに施設やインフラの整備等に係る経費が重くのしかかります。
今後はなお一層施策の優先順位を明確にして、事業のスクラップをシビアに進める必要があります。

※結論

以上、これより結論を申し上げます。
市民ネットワークは、R2年度当初予算案に対し、梨の木公園地下駐車場改修工事、八幡宿駅西口のモデルケース事業、庁舎強靭化対策事業、以上の公共事業を主な理由として反対しました。
その後梨の木公園地下駐車場に関しては工事を見合わせ、そのあり方を周辺のまちづくりと一体的に検討するとしたことについては、大いに評価いたします。
しかしながら、他の2事業については、先ほど申し上げた通り、場所・機能・量ともにまちづくりの観点から総合的に再検討した動きは、ほとんど認められませんでした。
加えてこれまで指摘した事項を総合的に勘案し、市民ネットワークはR2年度市原市一般会計並びに特別・企業各会計決算について認定できないものといたします。

※結び

R2年度は、前の年に市内を襲った災害を乗り越えた飛躍の年としてスタートするはずでした。
疫病による緊急事態宣言発出という異例の幕開けとなることを、誰が予想したでしょうか。
混迷する状況下で、日本内外の様々な首長の判断や発信に、世間がこれほど注目した事は今まで無かったと思います。
確実に、これまでと違う何かが足元で動き出しています。
その動きに翻弄されることなく、逆に好機と捉え、一本筋が通ったまちづくり政策を着実に押し進めることができるかどうか。
今後の執行部の奮起に期待して、意見の陳述とします。