平成31年/令和元年 第4回市原市議会定例会
個別質問 森山かおる
1医療的ケア児者とその家族への支援体制について について
1)実態の把握からみる支援について
医療的ケア児者とは、気管切開による痰の吸引、胃瘻などからの経管栄養、導尿といった、日常的に医療行為が必要な人たちのことです。医療技術の進歩に伴って、かつては在宅での生活が困難であった人工呼吸器をつけて日常生活を送っている医療的ケア児者もいます。ケアの内容や身体状況も異なることから、個々のニーズを拾い上げ在宅生活を支える施策に結びつけてほしいとの思いから、私は2年前に実態を把握するための調査をお願いしました。その直後、県が重症心身障害児者を含めた医療的ケア児者のアンケート調査を実施することになったため、その結果を待つことになりました。
その調査結果は7月に各自治体に届けられています。市原市の場合は、アンケートに回答した医療的ケア児者30人のうち、市へのデータ提供の同意をとれた20人分が届いています。
県は更に同意を求める文書を送ってはいますが、実態調査の事業は終了していますので、その後の把握については各自治体に求められています。また、この調査は対象者が利用していると思われる医療機関、特別支援学校、福祉施設などを通してアンケートを配布していますが、まだ拾いきれていない対象者もいるとのことです。
このようなことから、すでに習志野市では医療的ケア児者の全数実態把握に着々と乗り出し、新たに20人の対象者を掘り起こしていますが、市原市では同意が取れなかった方の洗い出し、また県の調査から漏れた方の掘り起こしについて、どのように取り組まれるのかお聞かせ願います。
(保健福祉部長 答弁)
医療的ケア児者の実態把握について、お答えいたします。
現在、市では、千葉県が実施した実態調査のうち、個人情報の提供に同意された市内の方の回答内容について、県から情報提供を受けております。
このことにより、医療的ケア児に係る関係機関及び当事者で構成する医療的ケア児に関する協議の場において、医療的ケア児・者のニーズ等を共有しているところでございます。
議員ご指摘のとおり、個人情報提供の同意をいただけなかった人などがおられますことから、市としましても、これらの方々からも情報の提供をいただくことは、医療的ケアに関する対応を検討するうえで重要なことと考えております。
一方で、対象者の全数把握をしていくためには、市が所管している、障害福祉サービス等の対象者の情報以外にも、医療機関や県の保健所が所管する疾病に関する情報が必要となることから、各実施機関で所管する個人情報を市が取り扱う場合の制限といった課題も考えられるところです。
このことから、対象者全数を把握するための情報の収集方法等について、他市町村の実施状況等を調査するなどし、検討してまいります。
習志野市では療育・身体障がい者手帳の取得者、日常生活用具の給付者、小児慢性特定疾患、指定難病(50才以上で発症するALS)、福祉サービス利用者など市が把握しているあらゆるリストを活用してアンケートを送っています。
対象者の把握がなければ適切な支援は考えられません。対象者を全て把握するという意気込みをもって、取り組んでいただきたいです。
*真の支援体制を構築するためには生活実態の把握から
調査の実施に尽力された県リハの石井ドクターの言葉。「この調査はあくまでもきっかけに過ぎない。各自治体のまちづくりを考えるために、この調査結果をもとにしてより精度を高めてほしい」とおっしゃっていました。
例えば県の調査で「利用したいが利用できないサービス」として短期入所にチェックを入れても、介護者のひっ迫した状況はわかりません。市内に痰の吸引ができるヘルパーは足りているのか、介護者の年齢や休息はどれくらいとれているのかなど、詳細な実態調査をしてこそ短期入所を希望する背景がつかめ、いつまでにどのようなサービスをどれくらい用意しなければならないかという支援策が見えてくるのではないでしょうか。
県の調査より一歩踏み込んだ、医療的ケア児者の実態調査を実施していただきたいが、如何ですか。
(保健福祉部長 答弁)
医療的ケア児・者の支援策を検討する場合には、その家族の方が現在置かれている状況も含めて把握し、生活実態を捉えた上で、福祉サービスをコーディネートする必要があるものと認識しております。
市としましては、医療的ケア児に係る関係機関や当事者等で構成する、医療的ケア児に関する協議の場において、今後のニーズへの対応や支援策について協議していく中で、詳細の実態調査も含めて関係者と共に協議し、検討してまいりたいと考えております。
いちはら障がい者福祉共生プランの各種サービスの計画値は、実績値や当事者のニーズを勘案して算出していますが、利用したくてもできないという状況や当事者の把握がないままでは、真のニーズが反映されるとは思えません。
生活実態を把握できるような詳細な調査を望みます。
2)教育・保育施設及び学校の受け入れ体制について
*教育・保育施設の受け入れ体制
これまで医療的ケア児といえば多くの場合、身体・知的共に重度な重症心身障害児でした。しかし昨今ではその概念とは異なる「新しい障害児」として医療的ケア児がクローズアップされ、その人数は10年間で倍増しています。
このような子ども達は福祉や障害児施策の範疇におさまらないため、制度と制度のはざまに取り残され適切な支援が受けられない状況にあります。そこで2016年の児童福祉法改正により、医療的ケア児への対応が市町村の責務として明記されました。しかし、このような医療的ケア児に対して、教育や保育施設の受け入れ体制はどうでしょうか。
実際に市原市にはこんな3歳のお子さんがいます。寝ている間だけ呼吸能力が低下するという先天性疾患のため、気管切開をして夜はシーパップという空気を送り込む装置を付けています、痰の吸引が必要な医療的ケア児です。しかし、身体・知的に全く遅れがなく、病弱でもなく、昼間は元気に走り回っています。
発達に遅れがないので発達支援センターはフォローしていません。妊娠、出産、子育てまで切れ目のない支援をするネウボラセンターは、主治医である千葉市の医療機関とつながっておらず、市は把握できていません。
このようなケースで、保護者がいざ就学を見据えて近場の園で集団生活を経験させてあげたいと考えた時初めて、受け入れ先がどこにもないという大きな壁にぶち当たります。
この度の市の幼・保再編成によって、集約された人材を活用して、障害児専従の職員が臨時から全て正規に変わりました。看護師も12園中7園まで配置ずみです。
これは障害児や病弱な幼児とって、非常に意味があることと受け止めています。
しかし、医療的ケア児の受け入れだけは、未だに大きなバリアがあるようです。
そこで伺います。市原市で医療的ケア児の教育・保育施設への受け入れを進めるために、市としてどのような取り組みが必要と考えていますか。
(子ども未来部長 答弁)
教育・保育施設の受け入れ体制について、お答えいたします。
保育所等では、就学前までの幅広い年齢層の乳幼児の集団保育を実施しておりますことから、感染症の罹患や、怪我等のリスクなどに常に目を配っていく必要があります。
このような環境の中、医療的ケア児が健康にそして安心して、集団生活を過ごしていくためには、受け入れ体制の整備が必要と考えております。
具体的には、医療的ケア児の受け入れを行う保育所等に医療機関との連携の下、対象児童に必要な医療行為ができる看護士等の配置や、受け入れ施設の保育士全員が、医療的ケア児に対する必要な知識等を身につけ、安心・安全に保育を実施できるようにすること、さらには、一人一人の医療的ケアの状況を踏まえた、適切な施設整備等も必要だと考えております。
このため、現在、市では、医療的ケア児を、安心・安全に公立施設で受け入れられる体制の構築に向け、保育士・看護師をメンバーとした検討会を設置し、協議を進めているところです。
また、民間の教育・保育施設におきましても、医療的ケア児の受け入れ体制の整備が必要となりますことから、市内教育・保育施設等関係者の意見も踏まえ、必要な支援について検討してまいります。
国の2018年度「医療的ケア児保育支援モデル事業」に県内では松戸市、習志野市、浦安市、山武市が手を挙げています。市原市も、現場が安心して受け入れられるよう、必要な体制整備を進めて頂きたいです。またそれと同時に、受け入れに前向きな私立の園に対しても同様に支援する制度や、24時間の看護で疲弊する保護者も保育を利用できるような規約の見直しも考えられます。
総合計画基本計画には「全ての子どもに質の高い教育・保育を提供することを目指す」とありますが、医療的ケア児はこれまで制度のはざまで適切な支援を受けることができませんでした。医療的ケア児から身近な場所で教育保育を受ける権利をどうか奪わないよう対応をお願いしたいです。
*学校の受け入れ体制の整備
続いて学校の受け入れ体制について伺います。
市原市障がい者基本計画では「インクルーシブ教育の理念を踏まえ、福祉・教育の連携による一貫した支援体制の充実を図るとともに、障害の有無に関わらず、すべての児童が共に成長できるよう、教育環境の整備・充実を図る」とされています。しかし残念ながら、痰の吸引や経管栄養など学校でのケアが必要なお子さんの入学事例は未だにありません。
今後ニーズがあった場合はその希望を叶えるために、どのような取り組みが必要になるとお考えですか。
(学校教育部長 答弁)
学校における教育活動を行う上では、児童生徒の安全の確保を保障することを前提とし、すべての子どもたちが能力や可能性を最大限に伸ばせるよう、一人一人の教育的ニーズに応じた適切な支援を行うことが重要であると考えております。
医療的ケア児が安全で安心して学校生活を送るためには、組織的な対応を図る必要があります。
そのため、関係部局や医療関係者と連携し、先行的に取り組んでいる自治体の実施例を参考に、ガイドラインの策定等を検討していく必要があると考えております。
今後、医療的ケア児の入学の希望があった場合には、就学前の教育・保育施設等との連携を図りながら、保護者に対し、できるだけ早い時期から就学に関する情報を提供し、相談を重ねる等、さらなる体制整備に努めてまいります。
今後、学校現場と医療機関や療育機関などとの更なる連携強化も必要です。
母子保健から集団保育・幼児教育、そして学校教育への切れ目のない支援は、誰もが地域社会の一員として豊かに暮らすことができる共生社会に向けた、一番初めの一番重要な取り組みです。人生の入り口で分けられるようでは共生社会の構築は望めません。「誰一人とり残さない社会」に強い決意で臨まれるよう、より一層の取り組みの強化を要望します。
3)各種手続きについて
時間がないため割愛
4)災害に備えた支援について
*停電による電源の確保について
9月の台風15号の被害では予期せぬ停電の長期化がありました。人工呼吸器や吸引器など電源が必要な医療的ケア児者にとって、長期の停電は命に繋がる深刻な問題です。
これまでは停電の際、人工呼吸器の使用者は電力会社に登録することで発電機を用意してもらうこともできましたが、今回のような大規模な停電では全ての要請に応えることができなかったようです。そこで呼吸器の業者から急いで予備バッテリーを運んでもらった、停電が復旧した福祉施設や知人宅に吸引器のバッテリー充電を頼んだなど、電源確保に苦慮した話を伺っています。
このような経験から自助の力を高めようという意識が広がりつつあり、家庭用蓄電池や発電機を購入された方もおられるが、高額なため経済的に厳しい家庭もあります。
市原市ではこのような長期の停電は初めてでしたが、過去に大災害を経験した自治体では人工呼吸器使用者に対して、家庭用蓄電池や発電機などを日常生活用具で給付しています。市でも検討していただきたいが、如何ですか。
(保健福祉部長 答弁)
日常生活用具を給付する事業につきましては、障がいのある方々の日常生活がより円滑に行われるよう、一般に普及していない用具を給付、又は、貸付するものでございます。
給付対象となる日常生活用具は、国が定める要件等に基づき、市原市障害者等日常生活用具給付事業に関する要綱において、品目を定め、所得に応じて購入等の費用を助成しております。
医療機器の電源確保につきましては、生命の維持に無くてはならないものでありますことから、自助・共助・公助という、それぞれの主体が万全を期して、災害時に備えて取り組んで行く必要があると考えております。
このことを踏まえ、災害時の電源確保の現状や医療機器に使用できる蓄電池等の普及状況などの情報を医療的ケアに係る関係者と共有し、日常生活用具給付事業の趣旨と照らしながら、導入について検討してまいりたいと考えております。
千葉県下で給付しているところは見当たりませんでしたが、千葉市や成田市などすでに検討している自治体もあるとのことです。自助の力を高めるための重要な取り組みとして検討していただきたいです。
そうは言っても、災害はいつ来るかわからないし、自助の力を高めても停電の長期化では持ちこたえられないことも考えられます。
この度の一連の災害では、公共施設でスマホ等の充電を行っていただいたが待ち時間もありました。しかし医療機器のバッテリー充電は命に関わる別レベルのものです。
そこで、待ち時間がないような工夫、市内で一番災害に強い第1庁舎や学校を含めた公共施設での受け入れを可能にするなど、家からできるだけ近い場所で充電できるような体制と周知を考えていただきたいが、如何ですか。
(総務部長 答弁)
充電コーナー設置について、お答えいたします。
台風15号では、大規模停電への対応として、本庁1階市民プラザや支所、避難所となった公民館、コミュニティセンター等に充電コーナーを設置いたしました。
特に、本庁舎1階市民プラザの充電コーナーには、100を超えるコンセントを設置し、ほぼ待ち時間なく、多くの方にご利用いただくことができました。
また、千種コミュニティセンターでは、人工呼吸器のバッテリーの充電を希望する要支援者が、避難されるとのご連絡をいただきましたことから、施設管理者と連携し、同センターでの充電態勢を確保するなど、その対応を図ったところです。
今後につきましても、今回の災害での経験を踏まえまして、臨機に対応していくとともに、充電を必要とする、より多くの方に充電コーナー等のご利用をいただけるよう、その周知に努めてまいります。
信号機も機能しない中で、限られた場所に行くには危険です。充電に走る家族が事故に遭わないためにも、受け入れ先を増やしていただきたいです。
*医療的ケア児者を拒まないで
先の代表質問で小沢議員が、知的障害児や発達障害児が一次避難所に行きたくても行けない事情について触れましたが、医療的ケア児者も同様です。
肢体不自由の障がい児者団体でアンケートをとった所、停電や断水があったにも関わらず医療的ケア児者は一人も避難所へ避難していませんでした。
その理由は、医療機器のモニターやアラーム音、痰吸引の度に音がする、導尿など排泄ケアでは臭いがすることから周囲の人に気を使い、本人も介護者も大きなストレスを感じてしまうからです。
しかし、たった一人だけ避難所を訪れた母親がいました。その方には車椅子を使用し夜間だけ空気を送り込むシーパップを装着している息子さんがいます。停電でシーパップが使用できず3日目の朝にはグッタリしたため避難所の様子を見に行きましたが、すでに和室は満員でした。会議室の床に寝るしかなく、布団の満ち込みをお願いしようにも聞けるような状況でなかったとのことです。
避難所の運営に手一杯だったことも分かりますが「ここは福祉避難所ではないので、障がい者の受け入れは想定していない」と言われ、諦めて知人宅に避難されました。
おそらく、医療機器が必要な人には福祉避難所が適切だと思われたのででしょうが、電源があって体を休める場所があればそれで良かっただけなのです。
つまり、特別な設備を求めているわけではありません。今後は医療的ケア児者もためらうことなく避難所に行けるよう、受け入れ側の認識を改めていただきたいが、ご見解を伺います。
(総務部長 答弁)
医療的ケア児・者を一般避難所で受け入れることにつきましては、より適切に対応して行くために、受け入れ側といたしまして、どのような知識と設備、そしてサポートが必要かなど、十分な検討が必要であると考えます。
したがいまして、先進的な事例も参考としながらですね、関係部局とも連携し、今後の避難所運営体制の検証と見直しの中で、検討をさせていただきたいと考えております。
私は災害時にこそ、自治体の共生社会の成熟度が現れると思っています。
医療的ケア児者の受入れが難しいと思われているのは、心のバリアではないでしょうか。
たとえ人工呼吸器を付けていても家族にとってはそれが日常生活です。だから災害時の避難でまず目指す場所は、決して病院や福祉避難所に限らないことを知っていただきたいです。そして、災害時の支援も、先程お聞きした教育・保育施設や学校の受け入れ体制も、事前の情報がなければ具体的な支援策は考えられません。そのためにも医療的ケア児者を拾い出し、詳細な実態調査を実施するよう重ねて要望します。