令和6年第3回市原市議会定例会議 決算審査特別委員会 意見陳述 小沢みか

意見陳述

それではこれより意見の陳述を行いますが、まず実行計画令和5年度版の重点的取り組み事項から、特に気になった項目に沿って申し上げます。

*「拠点まちづくりビジョンの実践」について

五井駅周辺については、拠点別整備基本計画(五井編)に基づき土地区画整理事業の実施に向けた取り組みなど動きが見えてきましたが、八幡宿駅及び姉ヶ崎駅周辺の拠点整備基本計画の策定については、ほとんど進んでいません。

特に八幡宿編は当初令和5年度策定の予定でしたが、現時点では順天堂大学の新学部設置の動向に左右され、事実上停滞しています。まちづくりの手段であったはずの大学誘致が目的化してしまった感は否めず、行政の主体性が問われています。

まずは地域住民や関係者の声を重視し、ぶれることなく迅速に計画策定を進めていただきたい。

また各エリアにおいて、地権者や民間企業との調整が複雑にからむ大規模な事業になることから、全体を俯瞰したプロジェクトマネジメントの視点を強化して取り組んでいただくよう重ねて要望いたします。

*「地域産業が育つまち」について

経済部所管の決算額約40億円のうち4分の3の約30億円を占める商工業振興費においては、産業創造拠点の整備が進み、臨海部企業との連携や起業・創業支援など様々な取り組みが着実に広がりを見せていると評価しています。

中小含めた市内企業が今後も持続可能な成長を遂げるために、特に循環型経済への移行や人材育成などの支援を更に推し進め、「ものづくりのまち」としての価値を高めていただくよう期待しています。

一方で、農業費は経済部所管の決算額のうち15%・約6億円に過ぎません。

令和5年度は大規模農業事業者の誘致や市原型遊休農地解消モデルの構築を目指すとされていましたが、目立った進展は見られませんでした。

県の資料によると、令和4年度新たに発生した農用地区域内の荒廃農地面積について、市原市は162㏊と県内ワーストで全体の3割近くを占め、累計でも520㏊とワーストの位置にあります。

令和5年度も市は県と共に様々な支援メニューを用意しましたが、例えば「担い手農業者育成事業」は決算額240万円・交付件数5件と非常に少なく、この規模ではなかなか事業効果が現われにくいのではないかと感じました。農業費の予算をもっと大胆に増やす必要があるのではないでしょうか。

また、市が取り組む農業経営の大規模化の方向性の一方で、近年では国際的に小規模農家の重要性が見直されており、日本でも都市近郊では、消費者が生産活動に参画する地域支援型農業(CSA)や有機農業など多様な農業が注目され始めています。これらは大規模化とは異なる視点から、食の安全・安心や環境への配慮といった多様なニーズに応えています。

当局には、こうした多様な農業が共存できるよう、必要な支援策の強化を求めます。

*「本市ならではの多様な資源を活かした地方創生の推進」について

個別の事業では特に「ゴルフの街いちはら」の取り組みについて、令和5年度は市原市民にとってのゴルフ、中でも教育手段としてのゴルフの活用やジュニアゴルファーの環境の充実に意を用いられたことについて評価しています。

ただ、観光費が執行率58%と低調でありながらも約4億7,000万円で、地方創生部所管 事業費の過半を占めているという状況に鑑み、あらためて問題提起をさせていただきます。

本市はこの10年間、市南部への交流・定住人口の増加を目指し、現代アートを活用した観光振興策に多大な人的資源や経費を投入してきました。しかし様々な指標を見ると、例えば小湊鐵道 観光利用客数は目標8万人に対し3万7000人、市原市民であることに誇りを持つ市民の割合は目標値どころか基準値をも下回るなど、投資に見合った成果が出ていないことは明らかです。

一方、市民意識調査で市民が最も強く要望する公共交通の便の改善に係る事業として、交通網整備関係事業費の決算額はわずか5,100万円と、地方創生部所管 全体額の5.6%に過ぎません。例に出して恐縮だが「エンジン01 in市原」実行委員会補助金5,500万円を下回る額です。

観光費が農業費と同規模で、交通網整備関係事業費の約10倍という現状が、果たして市の資源配分として適切であると言えるのでしょうか。

昨今は特に、市民の移動の不自由さが日々の生活に大きな影響を与えています。地方創生に向けた施策に対する見直しを強く求めます。

*「強靱な地域づくり」に関連して

まず市民経済分科会では、林業費において、自然災害による停電や道路不通を防ぐための樹木の伐採に係る事業の執行率が、非常に低い事が判明しました。

異常気象や森林の高齢化などにより、予防伐採の重要性や緊急度が高まっています。

令和5年度は予定通りに進まず結果的に基金に約3,300万円積み立てましたが、今後は森林環境譲与税を積極的に有効活用すべくあらゆる手立てを講じ、予防伐採を迅速に進めていただくよう要望いたします。

また、都市部所管の文化交流施設整備事業の予定地は浸水想定区域内に位置しており、内水氾濫のリスクが懸念されます。農地転用による雨水流出量の増加が、このリスクを更に高める可能性もあるのではないかと懸念しています。

更に、財政部所管の八幡宿駅西口複合施設の建設地も、現在策定中の内水ハザードマップのエリア内に含まれると推測されます。

事実、今月市内を襲った豪雨では、建設地に接する幹線道路が冠水し、向かいの公民館が避難所としての役割を果たすことができる状況ではありませんでした。これは、災害時の現地連絡本部としても機能しないことを意味するのではないでしょうか。

このたび能登半島を襲った豪雨では、浸水想定区域内の仮設団地が大きな被害を受け、立地リスクを軽視することの危険性をあらためて示しています。

以前から繰り返し申し上げていますが、これらの問題に対する具体的な対策を早急に検討し、市民に示していただくよう要望いたします。

*主要な決算資料である事業シートについて

前回指摘させていただいた自己評価分析については、客観的かつ深掘りされた事業が増えた印象を受けました。

しかし、事業の対象者の絞り込みの甘さや、アウトカムと実績値の関連性の曖昧さ、目標値の設定不足といった課題は、依然として残っていると感じました。

特にアウトソーシング化が進んでいる事業については、成果物に対する指標を明確にすることで、事業の透明性と効率性を高める必要があります。

新たな総合計画の策定を機に事業評価指標の見直しを更に徹底し、より客観的で具体的な評価ができるよう、改善に努めていただきたい。

*歳入について

市税は令和4年度との比較で、家屋数の増加や臨海部企業の設備投資などによる固定資産税の増加に支えられ、2億2000万円の増額となりました。固定資産税は9年連続で増加傾向にあります。これは、本市の経済活性化を示す一つの指標と言えるでしょう。

また寄付金額が当初予算を大幅に上回り前年度比44%増となった事は特筆すべき事項です。

一方、諸収入における収入未済額増加の主な原因である生活保護費返還金については、本年7月に公表された生活保護事務の不適正処理が大きな要因の一つであると考えられます。

督促に当たっては被保護者に寄り添い丁寧に対応していただくようお願いいたします。

*まちひとしごと創生総合戦略について

「まちひとしごと創生法」が施行されてから10年が経過しました。人口減少に焦点を当てた取り組みで、現在は「デジタル田園都市国家構想」に模様替えしながら進められています。

本市も「市原市まちひとしごと創生総合戦略」や続く第二期戦略に従って、コロナ禍の対応を含め多くの特定財源・一般財源を投入してきました。

個別事業の成果の度合いは様々ですが、いずれも市の課題に向き合い戦略に従って真摯に取り組まれたことについては評価しています。

然しながら、戦略全体を俯瞰すると、例えば重要業績 評価指標(KPI)である2、30代の人口は年平均1,100人近く減り続けるなど、残念ながら十分な効果がもたらされたとは言えません。

本年6月に国が発表した「地方創生10年の取組と今後の推進方向」では、これまでの取り組みは人口減少や東京圏への一極集中などの大きな流れを変えるには至らず、単なる地域間での人口の奪い合いになった、と認めています。

本市の取り組みは、国の政策に翻弄されてきたとも言えるでしょう。

令和5年度に市制施行60周年という節目を迎えた本市は、いま次のステージの羅針盤となる新たな総合計画を策定しています。この機会にこれまでの戦略を振り返り、施策の有効性や課題を、財源の使途も含め厳密に検証していただきたい。

国の方針に左右されることなく本市の未来を自ら切り開く、新たなビジョンが示されることを期待しています。

種々申し上げたが、最後に注目したい項目として、

*「誰もが自分らしく暮らすことのできるまちの実現」について

令和5年度は重層的支援体制の推進として、ひきこもりの方などに対する「参加支援の場づくり事業」、地域食堂・子ども食堂への支援、生活困窮者自立支援事業における学習支援の拡充に向けた取り組みなど、子どもの貧困や制度の狭間にあるニーズに対する支援を着実に進められました。

まさにこれから目指す多様性・包摂性・持続可能性の高いまちの実現へのアプローチと捉え、高く評価しています。

今後も、特に社会の不平等を解消するための取り組みの更なる強化を期待しています。

結び

令和5年度は新型コロナウイルス感染症の影響が徐々に緩和され、経済活動が回復基調に転じたものの、物価上昇、地政学的リスク、気候変動など、依然として不確実性の高い状況が続いています。

市長はじめ執行部の皆さまにおかれましては、より一層の財政規律の強化に努めると共に、慎重かつ機動的に施策を推進されるよう要望いたします。

いちはら奏会は、令和5年度の市原市一般会計並びに特別・企業各会計決算については概ね適切な執行に努められたものと認め、これらを認定いたします。拡大と成長を前提とした従来のまちづくりから、住民の満足度や幸福度を追及するまちづくりへの転換に向け、今後の施策展開に期待し、意見陳述といたします。